かねてより風に先立つ波なれや
逢ふことなきにまだきたつらむ
- 歌の意味
-
前もって風より先に立つ波だからなのか、まだ逢ってもいないのに、どうして早くも噂が立つのだろう。
- 鑑賞
-
巻第十三 恋歌三 627
詞書「題しらず」
まだ逢ってもいないのに早くも噂が立つことを、風が吹く前に立つ波にたとえて嘆く歌である。「たつ」に波が立つと名が立つを掛け、事実より先に広まる噂の理不尽さを表している。
作者は「よみ人しらず」とあり、名は伝わっていない。
前歌に続いて恋を波にたとえ、ここから「なき名」が立つことを嘆く歌群へと移っていく配列である。
初句「かねてより」は、前もって、以前から、の意である。
二句「風に先立つ」は、風が吹くより先に立つ、の意で、原因より先に結果が現れることのたとえとなる。
三句「波なれや」は、波だからなのか、の意で、係助詞「や」が疑問を示す。三句切れである。
四句「逢ふことなきに」は、まだ逢うこともないのに、の意で、逆接を示す。
結句「まだきたつらむ」は、波が立つと噂が立つを掛けた掛詞で、早くも噂が立つのだろう、と原因を推量して結ぶ。
たつ:波が立つ意と、噂が立つ意を掛ける
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
逢ふことのなぎさにし寄る波なれば うらみてのみぞ立ち帰りける
- 次の歌
-
みちのくにありといふなる名取川 なき名取りては苦しかりけり