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あやなくてまだきなき名のたつた川
渡らでやまむものならなくに

歌の意味
わけもなく、早くも根も葉もない噂が立ってしまった。竜田川を渡らずに終わるわけでもないのに、まだ渡ってもいないうちから。
鑑賞
巻第十三 恋歌三 629

詞書「題しらず」
 まだ逢ってもいないのに噂が立ってしまったが、いずれは竜田川を渡るように逢わずに終わるつもりはないのだから、と詠む歌である。「たつた」に噂が立つと竜田川を掛け、川を渡ることを恋の成就にたとえている。噂を嘆きつつも恋をあきらめない心が表れている。
 作者の「みはるのありすけ」は御春有助である。河内国の人と伝えられ、藤原敏行の家人であったとされる。

 初句「あやなくて」は、わけもなく、筋が通らずに、の意である。
 二句「まだきなき名の」は、早くも根拠のない噂が、の意で、前歌の「なき名」を受ける。
 三句「たつた川」は、立つと竜田を掛けた掛詞で、噂が立つことと、大和の歌枕の竜田川を重ねる。
 四句「渡らでやまむ」は、渡らないまま終わる、の意で、川を渡ることに恋の成就を重ねる。「川」「渡る」は縁語である。
 結句「ものならなくに」は、〜というものではないのに、の意で、逢わずに終わるつもりはないと、倒置の形で四句を受けて結ぶ。

たつ:噂が立つ意と、竜田川の竜田を掛ける
なきな:根拠のない噂、無実の浮き名
作者
御春有助
出典
古今和歌集
前の歌
みちのくにありといふなる名取川 なき名取りては苦しかりけり
次の歌
人はいさ我はなき名の惜しければ 昔も今も知らずとを言はむ