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君や来し我や行きけむ思ほえず
夢かうつつか寝てか覚めてか

歌の意味
あなたが来たのか、私が行ったのか、わからない。あれは夢だったのか現実だったのか、寝ていたのか覚めていたのか。
鑑賞
巻第十三 恋歌三 645

詞書「業平朝臣の伊勢の国にまかりたりける時、斎宮なりける人にいとみそかに逢ひて、またの朝に人やるすべなくて思ひをりける間に、女のもとよりおこせたりける」
 昨夜の逢瀬は、あなたが来たのか私が行ったのかもわからず、夢か現実か、眠っていたのか目覚めていたのかもわからないと詠む歌である。詞書によれば、業平が伊勢の国に下った時、伊勢神宮に奉仕する斎宮であった女性とひそかに逢い、翌朝、使いを出すすべもなく思い悩んでいるところへ、女の方から贈ってきた歌である。問いを重ねる形で、禁じられた逢瀬の後の放心した心を表している。
 作者は「よみ人しらず」とされる。詞書から斎宮の歌であり、文徳天皇の皇女恬子内親王とする説が広く知られる。
 この贈答は『伊勢物語』第六十九段の狩の使の話として知られ、同段の名の由来ともなった。次歌の業平の返歌と一対をなす。

 初句「君や来し」は、あなたが来たのか、の意で、係助詞「や」と過去「き」の連体形「し」で疑問を表す。
 二句「我や行きけむ」は、私が行ったのだろうか、の意で、初句と対をなし、過去推量「けむ」で結ぶ。
 三句「思ほえず」は、わからない、の意で、三句切れである。
 四句「夢かうつつか」は、夢なのか現実なのか、の意で、第六百四十一首の二句と同じ句である。
 結句「寝てか覚めてか」は、寝ていたのか目覚めていたのか、の意で、四句と対をなし、疑問の「か」を重ねて惑乱する心を表す。

おもほゆ:自然に思われる、わかる
さいぐう:伊勢神宮に奉仕した未婚の皇女
作者
よみ人しらず
出典
古今和歌集
前の歌
寝ぬる夜の夢をはかなみまどろめば いやはかなにもなりまさるかな
次の歌
かきくらす心の闇に惑ひにき 夢うつつとは世人定めよ