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たぎつ瀬の早き心を何しかも
人目つつみのせきとどむらむ

歌の意味
激しく流れる瀬のようにはやる私の心を、どうして人目をはばかる慎みが、堤で堰き止めるように止めてしまうのだろう。
鑑賞
巻第十三 恋歌三 660

詞書「題しらず」
 急流のようにはやる恋心を、人目をはばかる慎みが堤のように堰き止めてしまうのはなぜだろうと詠む歌である。前歌と同じ「人目つつみ」を用い、激しい恋心と、それを抑える世間体との葛藤を、水の流れと堤の比喩で表している。
 作者は「よみ人しらず」とあり、名は伝わっていない。

 初句「たぎつ瀬の」は、激しく流れる瀬の、の意で、「早き」を導く。
 二句「早き心を」は、流れの速さと、はやる恋心を重ねる。
 三句「何しかも」は、どうして、の意で、強意の「し」と「かも」を添えて疑問を強め、結句の「らむ」と呼応する。
 四句「人目つつみの」は、堤と慎みを掛けた掛詞で、前歌の二句と同じ語句である。
 結句「せきとどむらむ」は、堰と塞くを掛けて、堰き止めるのだろう、の意で、原因推量の「らむ」で結ぶ。「瀬」「堤」「堰」は縁語である。

たぎつ:水が激しく流れる
つつみ:川の堤の意と、人目をはばかる慎みを掛ける
せく:流れを堰き止める意と、人の思いをせき止める意を重ねる
作者
よみ人しらず
出典
古今和歌集
前の歌
思へども人目つつみの高ければ 川と見ながらえこそ渡らね
次の歌
紅の色には出でじ隠れ沼の 下に通ひて恋ひは死ぬとも