おほかたは我が名もみなと漕ぎ出でなむ
世をうみべたにみるめ少なし
- 歌の意味
-
いっそのこと、私の評判も皆に知られるように、港から舟を漕ぎ出してしまおう。世の中をつらいと思って、海辺にいても、海松布が少ないように、逢う機会は少ないのだから。
- 鑑賞
-
巻第十三 恋歌三 669
詞書「題しらず」
どうせ逢う機会が少ないのなら、いっそ評判が立つのもかまわず、港から漕ぎ出すように恋を表に出してしまおうと詠む歌である。「みなと」に港と皆とを、「うみ」に憂みと海を、「みるめ」に海松布と見る目を掛け、海の縁語を連ねて、忍ぶ恋を投げ出そうとする捨て鉢な心を表している。
作者は「よみ人しらず」とあり、名は伝わっていない。
ここから巻末まで、恋の評判が立つことを詠む歌が続く配列である。
初句「おほかたは」は、いっそのこと、総じて、の意である。
二句「我が名もみなと」は、皆と港を掛けた掛詞で、私の評判も皆に知られるようにと、港を重ねる。
三句「漕ぎ出でなむ」は、漕ぎ出してしまおう、の意で、完了「ぬ」の未然形「な」に意志「む」が付いた形である。三句切れである。
四句「世をうみべたに」は、憂みと海を掛けた掛詞で、世をつらく思うことと、海辺を重ねる。
結句「みるめ少なし」は、海松布と見る目を掛けた掛詞で、海草が少ないことと、逢う機会が少ないことを重ねる。「港」「漕ぎ出づ」「海辺」「みるめ」は縁語である。
みなと:港の意と、皆との意を掛ける
うみ:つらいと思う意の憂みと、海を掛ける
みるめ:海草の海松布の意と、逢う機会の意の見る目を掛ける
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
我が恋を忍びかねてはあしひきの 山橘の色に出でぬべし
- 次の歌
-
枕より又知る人もなき恋を 涙せきあへずもらしつるかな