逢ふことは玉の緒ばかり名の立つは
吉野の川のたぎつ瀬のごと
- 歌の意味
-
逢うことは玉の緒のようにほんのわずかなのに、評判が立つことは、吉野川の激しい流れの瀬のように、すさまじい。
- 鑑賞
-
巻第十三 恋歌三 673
詞書「題しらず」
逢う時間は玉の緒のようにほんのわずかなのに、評判は吉野川の激流のように激しく立つと嘆く歌である。わずかな逢瀬と大きな噂とを、短い玉の緒と激しい急流で対比させ、恋の割に合わなさを表している。
作者は「よみ人しらず」とあり、名は伝わっていない。
本巻の第六百五十一首は吉野川の滝の音に噂を立てまいと詠み、第六百六十首もたぎつ瀬を詠んでいたが、本歌ではその吉野川のたぎつ瀬のように噂が立ってしまったと詠み、呼応している。
初句「逢ふことは」は、逢うことは、の意で、三句の「名の立つは」と対をなす。
二句「玉の緒ばかり」は、玉を貫く紐ほどに短い、の意で、ほんのわずかな時間のたとえである。二句切れである。
三句「名の立つは」は、評判が立つことは、の意である。
四句「吉野の川の」は、大和の歌枕の吉野川で、流れの激しい川として詠まれる。
結句「たぎつ瀬のごと」は、激しく流れる瀬のようだ、の意で、比況の「ごと」で結ぶ。
たまのを:玉を貫き通す紐、短いもののたとえ
たぎつせ:水が激しく流れる瀬
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
池に住む名ををし鳥の水を浅み 隠るとすれどあらはれにけり
- 次の歌
-
群鳥の立ちにし我が名今さらに ことなしぶともしるしあらめや