知るといへば枕だにせで寝しものを
ちりならぬ名の空に立つらむ
- 歌の意味
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枕は恋を知るというので、枕さえしないで寝たのに、塵でもない私の評判が、どうして空に舞い上がるように立つのだろう。
- 鑑賞
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巻第十三 恋歌三 676
詞書「題しらず」
枕は恋の秘密を知るというので、枕さえせずに寝るほど用心していたのに、塵でもない自分の評判が、どうして空に舞い立つように広まるのだろうと詠む歌である。枕が恋を知るという当時の発想を踏まえ、塵が舞い上がる姿に噂の広まりを重ねて、防ぎようのない噂への嘆きを機知に富んだ表現で詠んでいる。
作者の「伊勢」は藤原継蔭の娘で、宇多天皇の中宮温子に仕えた女房である。宇多天皇の寵愛を受け、のちに敦慶親王との間に中務を産んだ。三十六歌仙の一人である。
本巻の巻末歌であり、巻頭の第六百十六首の業平の歌が「起きもせず寝もせで」と寝られぬ夜を詠んだのに対し、本歌は「枕だにせで寝し」と寝ることを詠んで結び、呼応している。第六百七十首の「枕より又知る人もなき恋」とも、枕が恋を知るという発想を共有している。
初句「知るといへば」は、枕は恋を知るというので、の意で、枕が恋の秘密を知っているという発想を踏まえる。
二句「枕だにせで」は、枕さえしないで、の意で、副助詞「だに」が最小限の例を示す。巻頭の第六百十六首の「寝もせで」と、打消の「で」を共有する。
三句「寝しものを」は、寝たのに、の意で、逆接の「ものを」で下へ続く。
四句「ちりならぬ名の」は、塵でもない私の評判が、の意で、塵なら空に舞い上がるのも当然だが、という含みを持たせる。
結句「空に立つらむ」は、どうして空に立つのだろう、の意で、塵が空に舞い立つことと、評判が立つことを重ね、原因推量の「らむ」で結ぶ。
ちり:塵、ほこり
そらにたつ:空に舞い上がる、根拠もなく噂が広まる
- 作者
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伊勢
- 出典
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古今和歌集
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君により我が名は花に春霞 野にも山にも立ち満ちにけり
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陸奥の安積の沼の花かつみ かつ見る人に恋ひやわたらむ