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逢ひ見ずは恋しきこともなからまし
音にぞ人を聞くべかりける

歌の意味
逢って契りを結ぶことがなかったなら、これほど恋しいこともなかっただろう。あの人のことは噂に聞くだけにしておくべきだった。
鑑賞
巻第十四 恋歌四 678

詞書「題しらず」
 逢ったためにかえって恋しさがつのることを嘆き、噂に聞くだけの仲にとどめておけばよかったと悔やむ歌である。反実仮想の「まし」を用いて逢う前の平穏を惜しむ心を理屈立てて述べており、古今和歌集らしい発想である。
 前歌が逢いながらもなお恋しいと詠んだのを受け、逢ったことそのものを恋しさの原因とみている。次歌の第六百七十九首も「見ずは恋しと思はましやは」と同じ趣向を詠んでおり、二首は「逢わなければ恋しくなかった」という発想を共有して対をなしている。

 初句「逢ひ見ずは」の「逢ひ見る」は男女が契りを結ぶことをいい、「ずは」は、もし…しなかったならの意の仮定条件である。次歌の四句「見ずは恋しと」と対応している。
 二句「恋しきことも」は、恋しく思うこともの意で、係助詞「も」が添えられている。
 三句「なからまし」は、反実仮想の助動詞「まし」を用いて、なかっただろうにの意を表す。ここで句切れとなる。
 四句「音にぞ人を」の「音」は噂、評判の意で、係助詞「ぞ」が結句の「ける」と係り結びをなす。
 結句「聞くべかりける」は、聞くだけにしておくべきだったの意で、「べかり」に詠嘆の「けり」の連体形「ける」が付き、四句の「ぞ」の結びとなっている。

あひみる:男女が逢って契りを結ぶ
おと:うわさ、評判
作者
よみ人しらず
出典
古今和歌集
前の歌
陸奥の安積の沼の花かつみ かつ見る人に恋ひやわたらむ
次の歌
石上布留の中道なかなかに 見ずは恋しと思はましやは