月夜よし夜よしと人に告げやらば
来てふに似たり待たずしもあらず
- 歌の意味
-
月夜がよい、よい夜だとあの人に言い送ったなら、来てくださいと言うのに似ている。とはいえ、待っていないわけでもない。
- 鑑賞
-
巻第十四 恋歌四 692
詞書「題しらず」
美しい月夜を知らせたいが、それを伝えれば来てほしいと誘うのと同じことになると恥じらいとためらいを見せながら、結句で本心をのぞかせる歌である。理屈の上で逡巡しつつ、待つ心を正直に打ち明ける屈折した表現に味わいがある。
「待つ」の一連の歌で、前歌の待ちぼうけに続き、自分から誘うことをためらう待つ女の心が詠まれている。
初句「月夜よし」は、月の夜がよいの意で、ここで句切れとなる。
二句「夜よしと人に」は、よい夜だとあの人にの意で、初句の「よし」を重ねて調子を整えている。
三句「告げやらば」は、言い送ったならばの意の仮定条件である。
四句「来てふに似たり」は、来てくださいと言うのに似ているの意で、「てふ」は「といふ」のつづまった形である。ここで句切れとなる。
結句「待たずしもあらず」は、待っていないわけでもないの意で、二重否定によって待つ心を控えめに打ち明けている。
つくよ:月の夜、月夜
つげやる:言い送る
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
今来むと言ひしばかりに長月の 有明の月を待ち出でつるかな
- 次の歌
-
君来ずは閨へも入らじ濃紫 我が元結に霜は置くとも