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空蝉の世の人言の繁ければ
忘れぬもののかれぬべらなり

歌の意味
この世の人の噂がうるさいので、あなたを忘れはしないけれども、足が遠のいてしまうことになりそうだ。
鑑賞
巻第十四 恋歌四 716

詞書「題しらず」
 世間の噂がうるさいので、相手を忘れたわけではないが、通いが途絶えがちになりそうだと詠んだ歌である。「繁ければ」「かれぬ」と草木の縁語を用い、噂によって仲が遠ざかっていくさまを表している。
 本巻の第七百二首から第七百四首で詠まれた人の噂が、ここでは実際に仲を遠ざけるものとして現れている。「かれ」は本巻の第六百八十六首、第七百四首と同じく、枯れと離れを掛ける趣向である。

 初句「空蝉の」は、「世」にかかる枕詞である。前歌の「蝉の声」と「蝉」の語でつながっている。
 二句「世の人言の」は、世間の人の噂の意である。
 三句「繁ければ」は、多くうるさいのでの意の確定条件で、草木が繁るイメージを含んでいる。
 四句「忘れぬものの」は、忘れはしないけれどもの意で、「ものの」は逆接の接続助詞である。
 結句「かれぬべらなり」の「かれ」は、人が遠ざかる「離れ」と草木の「枯れ」を掛けた掛詞で、三句の「繁けれ」と縁語をなす。「べらなり」は、…しそうだの意の助動詞で、平安時代初期の歌に多く用いられた。

うつせみ:この世、現世。もとはこの世に生きている人の意
ひとごと:世間の人のうわさ
かる:草木が枯れる意と、人が離れて疎遠になる意を掛ける
作者
よみ人しらず
出典
古今和歌集
前の歌
蝉の声聞けば悲しな夏衣 薄くや人のならむと思へば
次の歌
飽かでこそ思はむ仲は離れなめ そをだに後の忘れ形見に