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忘れなむと思ふ心のつくからに
ありしよりけにまづぞ恋しき

歌の意味
あの人を忘れてしまおうと思う心が生じるとすぐに、以前よりもいっそう、何よりもまず恋しさが先に立つことだ。
鑑賞
巻第十四 恋歌四 718

詞書「題しらず」
 忘れようと決心したとたんに、かえって以前よりも恋しさがつのるという、恋の心の逆説を詠んだ歌である。忘れようとする意志と、それに逆らう恋心のせめぎあいが、率直に表現されている。
 前歌の「忘れ形見」を受け、次歌の第七百十九首と「忘れなむ」の句を共有して対をなしている。本歌が忘れようとして忘れられない心を詠むのに対し、次歌は忘れようとする自分を恨むなと呼びかけている。

 初句「忘れなむと」は、忘れてしまおうとの意で、強意の「な」に意志の「む」が付いた形であり、六音の字余りの句である。
 二句「思ふ心の」は、思う心がの意である。
 三句「つくからに」は、生じるとすぐにの意で、「からに」は…するとすぐにの意の接続助詞である。
 四句「ありしよりけに」は、以前よりもいっそうの意で、「けに」はいっそう、ことさらにの意の副詞である。
 結句「まづぞ恋しき」は、何よりもまず恋しいことだの意で、係助詞「ぞ」を形容詞の連体形「恋しき」で結ぶ係り結びである。

つく:心が生じる、思いが起こる
作者
よみ人しらず
出典
古今和歌集
前の歌
飽かでこそ思はむ仲は離れなめ そをだに後の忘れ形見に
次の歌
忘れなむ我を恨むな郭公 人のあきにはあはむともせず