かげろふのそれかあらぬか春雨の
ふる日となれば袖ぞ濡れぬる
- 歌の意味
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かげろうのように、それであるのかないのか、はっきりとしない。春雨の降る日になると、かつての人のことが思われて、涙で袖が濡れてしまう。
- 鑑賞
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巻第十四 恋歌四 731
詞書「題しらず」
陽炎のようにはかなく、あるのかないのかもわからない昔の恋人を思い、春雨の降る日には涙で袖を濡らすと詠んだ歌である。「ふる日と」に「古人」を掛け、春雨と涙を重ねて、過ぎ去った恋へのしのびがたい思いを表している。
前歌の逢瀬を待ち望む心に続き、ここでは過去の恋人を思って涙する心を詠んでいる。次歌の第七百三十二首の「同じ人にや恋ひわたりなむ」、第七百三十四首の「いにしへになほ立ち返る心かな」と、昔の恋を振り返る歌が続いていく。
初句「かげろふの」は、陽炎、あるいは蜻蛉のことで、はかなく定かでないものの象徴として二句を導く。
二句「それかあらぬか」は、それであるのかないのかの意で、はっきりしないさまを示し、ここで句切れとなる。
三句「春雨の」は、春に静かに降る雨をいい、涙を暗示する。
四句「ふる日となれば」の「ふる」は、雨が「降る」と、古くなる意の「古る」を掛けた掛詞で、「ふる日と」に「古人」の意をこめている。
結句「袖ぞ濡れぬる」は、袖が濡れてしまうの意で、係助詞「ぞ」を完了の「ぬ」の連体形「ぬる」で結ぶ係り結びであり、春雨と涙を重ねている。
かげろふ:陽炎、また蜻蛉。はかなく定かでないもののたとえ
ふる:雨が降る意と、古くなる意の古るを掛ける。ふる日とに古人の意をこめる
- 作者
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よみ人しらず
- 出典
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古今和歌集
- 前の歌
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めづらしき人を見むとやしかもせぬ 我が下紐の解けわたるらむ
- 次の歌
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堀江漕ぐ棚無し小舟漕ぎ返り 同じ人にや恋ひわたりなむ