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わたつみとあれにし床を今さらに
払はば袖や泡と浮きなむ

歌の意味
涙で海のように荒れ果ててしまった寝床を、今さら払い清めたなら、袖は泡のように浮いてしまうだろうか。
鑑賞
巻第十四 恋歌四 733

詞書「題しらず」
 恋人の訪れが絶え、流した涙で海のようになって荒れ果てた寝床を、今さら払い清めようとしても、袖が泡のように浮いてしまうだろうと詠んだ歌である。涙を海に見立てる誇張によって、独り寝の悲しみの深さを表している。
 前歌の同じ人を恋い続ける心を受け、訪れの絶えた後の嘆きを詠んでいる。「あれ」は本巻の第七百四十一首の「人の心の荒れて見ゆらむ」とも響き合う。
 作者の「伊勢」は、伊勢守藤原継蔭の娘で、宇多天皇の中宮温子に仕えた女房である。宇多天皇の寵愛を受け、のちに敦慶親王との間に中務を生んだ。三十六歌仙の一人である。

 初句「わたつみと」は、海のようにの意で、涙が海のようにたまったことを誇張している。
 二句「あれにし床を」は、荒れてしまった寝床をの意で、訪れが絶えて久しく荒れた寝床を示す。
 三句「今さらに」は、今となってはの意で、再び訪れがあるかもしれないことを暗に示す。
 四句「払はば袖や」は、払ったならば袖がの意で、係助詞「や」が結句の「む」と係り結びをなす。
 結句「泡と浮きなむ」は、泡のように浮いてしまうだろうかの意で、涙の海に袖が浮くという誇張で結ぶ。

わたつみ:海。もとは海の神
とこ:寝床
はらふ:ちりを払って清める
作者
伊勢
出典
古今和歌集
前の歌
堀江漕ぐ棚無し小舟漕ぎ返り 同じ人にや恋ひわたりなむ
次の歌
いにしへになほ立ち返る心かな 恋しきことにもの忘れせで