頼めこし言の葉今は返してむ
我が身ふるれば置き所なし
- 歌の意味
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これまで私に頼みを抱かせてきたあなたのお手紙の言葉を、今はもうお返ししよう。わが身が古びて顧みられなくなったので、置き場所もないのだから。
- 鑑賞
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巻第十四 恋歌四 736
詞書「右のおほいまうちぎみ住まずなりにければ、かの昔おこせたりける文どもを取り集めて返すとてよみて送りける」
通ってこなくなった右大臣に、かつて贈られた手紙をまとめて返す際に詠んだ歌である。頼みにさせてきた言葉も、古びて顧みられなくなったわが身には置き所がないと、別れの悲しみと恨みを静かに告げている。
詞書の「右のおほいまうちぎみ」は、次歌の作者である近院の右大臣源能有を指し、次歌の第七百三十七首はその返歌で、二首は「言の葉」を返すことをめぐる贈答をなしている。「言の葉」は本巻の第六百八十八首、第七百十二首にも詠まれ、変わらぬ言葉への疑いが、ここでは手紙を返すという具体的な別れの場面となって現れている。
作者の「典侍藤原よるかの朝臣」は藤原因香である。贈太政大臣藤原高藤の娘で、母は尼敬信である。掌侍などを経て典侍を務めた。
初句「頼めこし」は、頼みに思わせてきたの意で、下二段動詞「頼む」に「来」と過去の「き」の連体形「し」が付いた形である。
二句「言の葉今は」は、あなたの手紙の言葉を今はの意で、「言の葉」を木の葉に見立てている。
三句「返してむ」は、返してしまおうの意で、強意の「つ」の未然形に意志の「む」が付いた形であり、ここで句切れとなる。
四句「我が身ふるれば」は、わが身が古びたのでの意で、年を経て相手に顧みられなくなった身を示す。
結句「置き所なし」は、置く場所もないの意で、「置き」は「言の葉」の縁語であり、手紙の置き場所のなさとわが身の置き所のなさを重ねている。
たのむ:下二段活用で、頼みに思わせる
ふる:古くなる、年を経る
おきどころ:物を置く場所
ないしのすけ:内侍司の次官。典侍
- 作者
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藤原因香
- 出典
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古今和歌集
- 前の歌
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思ひ出でて恋しき時は初雁の なきて渡ると人知るらめや
- 次の歌
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今はとて返す言の葉拾ひ置きて おのがものから形見とや見む