よそにのみ聞かましものをおとは川
渡るとなしにみなれそめけむ
- 歌の意味
-
遠くから噂に聞くだけにしておけばよかったのに。音羽川を渡るというわけでもなく、どうしてあの人に見慣れ、親しみはじめてしまったのだろう。
- 鑑賞
-
巻第十五 恋歌五 749
詞書「題しらず」
噂に聞くだけの相手でいればよかったのに、深い仲になるつもりもないまま親しくなってしまったことを悔やむ歌である。恋の苦しみを知った後から、始まりの時点を振り返っている。
作者の「藤原かねすけの朝臣」は藤原兼輔である。藤原利基の子で、従三位中納言に至った。賀茂川の堤に邸があったことから堤中納言と呼ばれ、紫式部の曽祖父にあたる。三十六歌仙の一人である。
初句「よそにのみ」は、関わりのない遠い所にばかりの意で、相手を自分とは無縁の人として眺める立場を示す。
二句「聞かましものを」は、反実仮想の助動詞「まし」を用い、聞くだけにしておけばよかったのにと実際とは逆の事態を願う。「ものを」は逆接の詠嘆である。
三句「おとは川」は、山城国の歌枕である音羽川で、「音」に噂の意を掛け、二句の「聞か」と響き合う。川は四句の「渡る」、結句の「みなれ」を導く。
四句「渡るとなしに」は、川を渡るつもりもないのにの意で、深い関係に踏み込む決意もないままであることを示す。「渡る」は「川」の縁語である。
結句「みなれそめけむ」は、「みなれ」に「見馴れ」と、川の水に馴れる「水馴れ」を掛ける。「けむ」は過去の原因推量で、どうして親しくなってしまったのだろうと自らに問う。
おとはがは:山城国の歌枕である音羽川に、噂の意の「音」を掛ける
みなる:相手を見慣れる意の「見馴る」と、水に馴れる意の「水馴る」を掛ける
みなれそむ:見慣れはじめる、親しくなりはじめる
- 作者
-
藤原兼輔
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
花すすき我こそ下に思ひしか ほに出でて人に結ばれにけり
- 次の歌
-
我がごとく我を思はむ人もがな さてもや憂きと世を試みむ