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唐土も夢に見しかば近かりき
思はぬ仲ぞはるけかりける

歌の意味
遠い唐土でさえも、夢に見たので近く感じられた。互いに思い合わない仲こそが、はるかに遠いものだったのだ。
鑑賞
巻第十五 恋歌五 768

詞書「題しらず」
 海を隔てた遠い唐土でさえ夢に見れば近く感じられたが、思ってくれない人との仲こそ本当に遠いと詠む歌である。地理的な距離と心の距離を比べ、心の隔たりのほうがはるかに遠いという逆説を示している。前歌に続いて夢を詠み、夢でさえ逢えない仲の遠さを別の尺度から描いている。
 作者の「けむけい法し」は兼芸法師である。伝は詳らかでない。

 初句「唐土も」は、中国をいい、当時の人々にとって最も遠い国の代表である。「も」はさえもの意を添える。
 二句「夢に見しかば」は、「しかば」が過去の「き」の已然形に「ば」が付いた確定条件で、夢に見たのでの意となる。
 三句「近かりき」は、過去の助動詞「き」で言い切り、ここで句切れとなる。遠い唐土が近かったという逆説を述べる。
 四句「思はぬ仲ぞ」は、互いに思い合わない、あるいは相手が思ってくれない仲の意で、係助詞「ぞ」で強める。
 結句「はるけかりける」は、「はるけし」が遥かに遠い意で、「ける」は「けり」の連体形で「ぞ」を受けて結ぶ。三句の「近かりき」と対比され、気づきの詠嘆を表す。

もろこし:中国の古い呼び名
なか:人と人との間柄、男女の仲
作者
兼芸法師
出典
古今和歌集
前の歌
夢にだに逢ふこと難くなりゆくは 我や寝を寝ぬ人や忘るる
次の歌
独りのみながめふるやのつまなれば 人をしのぶの草ぞ生ひける