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吉野川よしや人こそつらからめ
はやく言ひてしことは忘れじ

歌の意味
吉野川の名のように、よしや、たとえあの人が冷たかろうとも、吉野川の流れが速いように、以前に言い交わした言葉を、私は忘れまい。
鑑賞
巻第十五 恋歌五 794

詞書「題しらず」
 相手がどれほど冷たくなろうとも、以前に交わした約束の言葉を自分は忘れまいと誓う歌である。吉野川から同音の「よしや」を導き、さらに川の流れの速さから「はやく」を引き出して、急流の勢いに揺るがない決意を重ねている。前歌の水無瀬川に続き、川を詠む歌が並ぶ。
 作者の「みつね」は凡河内躬恒である。甲斐権少目、丹波権大目、和泉権掾、淡路権掾などの地方官を歴任した下級官人で、紀貫之らとともに古今和歌集の撰者を務めた。三十六歌仙の一人である。

 初句「吉野川」は、大和国の吉野川で、同音の反復によって二句の「よしや」を導く序のはたらきをする。流れの速い川として四句の「はやく」とも響き合う。
 二句「よしや人こそ」は、「よしや」がたとえ、ままよの意で、係助詞「こそ」は三句の已然形で結ぶ。
 三句「つらからめ」は、「め」が推量の「む」の已然形で、こそ〜已然形の逆接となり、冷たかろうともの意となる。ここで句切れとなる。
 四句「はやく言ひてし」は、「はやく」に以前にの意と、吉野川の流れが速い意を掛けた掛詞である。「てし」は完了と過去である。
 結句「ことは忘れじ」は、「じ」が打消の意志で、忘れまいと強く誓って結ぶ。

よしや:たとえ、ままよ
はやく:以前に、昔の意と、川の流れが速い意を掛ける
作者
凡河内躬恒
出典
古今和歌集
前の歌
水無瀬川ありて行く水なくはこそ つひに我が身を絶えぬと思はめ
次の歌
世の中の人の心は花染めの 移ろひやすき色にぞありける