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身を憂しと思ふに消えぬものなれば
かくても経ぬる世にこそありけれ

歌の意味
わが身をつらいと思っても、それで消えてしまうわけではないものなので、こんなありさまでも、どうにか過ごしてきた世の中であったのだ。
鑑賞
巻第十五 恋歌五 806

詞書「題しらず」
 わが身をつらいと思っても、それで命が消えるわけではないので、こうしてつらいながらも生きながらえてきたのだと詠む歌である。恋の嘆きの果てに、消えたくても消えられない身を見つめる諦念が示されている。前歌の涙の問いかけに続き、嘆きを抱えたまま生き続ける身を詠む。

 初句「身を憂しと」は、わが身をつらいとの意で、恋のために身を嘆くことをいう。
 二句「思ふに消えぬ」は、「ぬ」が打消の「ず」の連体形で、思っても消えないの意となる。思いによって身が消えることはないと述べる。
 三句「ものなれば」は、ものなのでの意で、順接の確定条件である。
 四句「かくても経ぬる」は、「かくても」がこのようなありさまでもの意、「経ぬる」は完了の連体形で、過ごしてきたの意となる。
 結句「世にこそありけれ」は、係助詞「こそ」を「けり」の已然形「けれ」で結び、そういう世であったと気づく詠嘆を示す。

ふ:時を過ごす
よ:世の中、また男女の仲
作者
よみ人しらず
出典
古今和歌集
前の歌
あはれとも憂しとも物を思ふ時 などか涙のいと流るらむ
次の歌
海人の刈る藻に住む虫のわれからと 音をこそなかめ世をば恨みじ