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あひ見ぬも憂きも我が身のから衣
思ひ知らずも解くる紐かな

歌の意味
逢えないのも、つらいのも、わが身のせいだというのに、唐衣の紐は、そうとも知らずに、恋人に逢える前触れのように解けることだ。
鑑賞
巻第十五 恋歌五 808

詞書「題しらず」
 逢えないのもつらいのも自分のせいであるのに、恋人に逢える前兆とされる紐がそれも知らずに解けると詠む歌である。紐が解けるのは相手が自分を思っている印とする俗信を踏まえ、叶わない期待を抱かせる紐を恨めしく眺めている。前歌の「われから」と同じく、つらさの原因を自分に見いだす歌が並ぶ。
 作者の「いなば」は因幡である。宮仕えの女房の呼び名で、伝は詳らかでない。

 初句「あひ見ぬも」は、逢わないこともの意で、「も」は三句の「憂きも」と並列する。
 二句「憂きも我が身の」は、つらいこともの意で、「我が身の」は三句の「から」にかかる。
 三句「から衣」は、「から」に自分のせいでの意の「から」と、美しい衣の「唐衣」を掛けた掛詞である。前歌の「われから」とも響き合う。
 四句「思ひ知らずも」は、「ずも」が打消に詠嘆の「も」が付いた形で、わきまえもせずにの意となり、紐を擬人化している。
 結句「解くる紐かな」は、下紐が自然に解けることで、恋人に逢える前兆とされた。「かな」の詠嘆で、恨めしさを込めて結ぶ。

から:原因を示す「から」と、美しい衣の「唐衣」を掛ける
おもひしる:わきまえる、悟る
ひも:衣の下紐で、自然に解けると恋人に逢える前兆とされた
作者
因幡
出典
古今和歌集
前の歌
海人の刈る藻に住む虫のわれからと 音をこそなかめ世をば恨みじ
次の歌
つれなきを今は恋ひじと思へども 心弱くも落つる涙か