逢ふことのもはら絶えぬる時にこそ
人の恋しきことも知りけれ
- 歌の意味
-
逢うことがすっかり絶えてしまった時になってはじめて、人が恋しいということも知ったのだった。
- 鑑賞
-
巻第十五 恋歌五 812
詞書「題しらず」
逢うことがすっかり途絶えてしまってから、初めて相手の恋しさを思い知ったと詠む歌である。関係が続いていた間には気づかなかった思いの深さを、失ってから知るという恋の皮肉を簡潔に表している。
初句「逢ふことの」は、恋人と逢うことの意で、二句の「絶えぬる」の主語となる。
二句「もはら絶えぬる」は、「もはら」がすっかり、まったくの意、「ぬる」は完了の連体形で、すっかり絶えてしまったの意となる。
三句「時にこそ」は、係助詞「こそ」が時を強め、結句の已然形「けれ」で結ぶ。その時になってはじめての意を表す。
四句「人の恋しき」は、人が恋しいことの意で、相手への思いの深さをいう。
結句「ことも知りけれ」は、「けれ」が「けり」の已然形で「こそ」を受け、今になって知ったという気づきの詠嘆で結ぶ。
もはら:すっかり、まったく
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
それをだに思ふこととて我が宿を 見きとな言ひそ人の聞かくに
- 次の歌
-
わびはつる時さへものの悲しきは いづこをしのぶ涙なるらむ