流れては妹背の山のなかに落つる
吉野の川のよしや世の中
- 歌の意味
-
流れ流れて妹山と背山の間に落ちていく吉野川の名のように、ままよ、男女の仲とはそういうものだ。
- 鑑賞
-
巻第十五 恋歌五 828
詞書「題しらず」
妹山と背山の間を流れ下る吉野川を詠み、その名から「よしや」を導いて、男女の仲とはこういうものだと、恋の終わりを受け入れる諦観で結ぶ歌である。上四句が序詞となり、流れ行く川の姿に、時の流れの中で隔てられていく男女の仲を重ねている。
本巻の巻末を飾る歌であり、巻頭に置かれた本巻の第七百四十七首が過ぎ去った恋への嘆きから始まったのに対し、「よしや世の中」という諦めで巻全体を閉じる。恋の始まりから終わりまでを描いてきた恋歌の部も、この歌で結ばれる。
初句「流れては」は、流れ流れての意で、川の流れと時の流れを重ね、恋の成り行きの果てを暗示する。
二句「妹背の山の」は、吉野川を挟んで向かい合う妹山と背山で、夫婦や恋人の象徴となる。
三句「なかに落つる」は、「なか」に二つの山の間の意の「中」と、男女の「仲」を掛けた掛詞である。六音の字余りの句である。
四句「吉野の川の」は、大和国の吉野川で、同音の反復によって結句の「よしや」を導く。初句からここまでが序詞となる。
結句「よしや世の中」は、「よしや」がままよ、どうともなれの意で、「世の中」は男女の仲をいう。本巻の第七百九十四首の二句も同じ「吉野川よしや」の型を用いるが、ここでは誓いではなく諦観で一首と巻を結んでいる。
いもせのやま:吉野川を挟んで向かい合う妹山と背山
なか:山の間の意の「中」と、男女の「仲」を掛ける
よしや:ままよ、どうともなれ
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
うきながら消ぬる泡ともなりななむ 流れてとだに頼まれぬ身は
- 次の歌
-
泣く涙雨と降らなむ渡り川 水まさりなば帰りくるがに