泣く涙雨と降らなむ渡り川
水まさりなば帰りくるがに
- 歌の意味
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泣いて流す私の涙よ、雨となって降ってほしい。三途の川の水かさが増したなら、妹が渡れずにこの世へ帰ってくるだろうから。
- 鑑賞
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巻第十六 哀傷歌 829
詞書「妹の身まかりにける時よみける」
妹を亡くした作者が、自分の涙が雨となって三途の川の水かさを増し、妹が川を渡れずに帰ってくることを願った歌である。あり得ないと知りながらも、死者を引き戻したいという切実な思いを、涙の量の多さに託して表している。哀傷歌の巻頭に置かれ、肉親の死を嘆く歌で巻が始まる。
作者の「小野たかむらの朝臣」は小野篁である。平安時代前期の公卿、漢詩人で、参議に至った。遣唐副使に任じられながら乗船を拒んで隠岐に流されたことでも知られ、その才と奇行から「野狂」とも呼ばれた。
初句「泣く涙」は、作者自身が泣いて流す涙である。哀傷歌の巻の冒頭の語として、巻全体を通じて繰り返される涙の表現の起点となる。
二句「雨と降らなむ」の「なむ」は他に対する願望を表す終助詞で、涙が雨となって降ってほしいと願う。涙を雨に見立てる表現は、本巻の第八百四十三首にも見える。二句切れである。
三句「渡り川」は死者が冥土へ行く途中で渡る川、いわゆる三途の川である。
四句「水まさりなば」は、水かさが増したならばという仮定である。「な」は完了の助動詞「ぬ」の未然形、「ば」は仮定を表す。
結句「帰りくるがに」の「がに」は「…するように」「…するだろうから」の意を表す。川を渡れなくなった妹が帰ってくるように、と二句の願いの理由を後から示す倒置の形である。
みまかる:死ぬ
わたりがは:死者が冥土へ行く途中で渡る川。三途の川
- 作者
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小野篁
- 出典
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古今和歌集
- 前の歌
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流れては妹背の山のなかに落つる 吉野の川のよしや世の中
- 次の歌
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血の涙落ちてぞたぎつ白河は 君が世までの名にこそありけれ