時しもあれ秋やは人の別るべき
あるを見るだに恋しきものを
- 歌の意味
-
時もあろうに、秋に人が死に別れてよいものか。生きている人を見るのでさえ恋しく思われる季節なのに。
- 鑑賞
-
巻第十六 哀傷歌 839
詞書は前の歌に続き「紀友則が身まかりにける時よめる」
前歌に続き、紀友則の死を悼んだ歌である。ただでさえ人恋しくなる秋に、よりによって死に別れるとはと嘆く。季節のもの寂しさと死別の悲しみを重ね合わせ、秋に亡くなった友への思いを強めている。
作者の「たたみね」は壬生忠岑である。友則とともに古今集の撰者を務めた。三十六歌仙の一人である。
初句「時しもあれ」は、ほかに時もあろうに、よりによって、の意である。「しも」は強意を表す。
二句「秋やは人の」の「やは」は反語の係助詞である。
三句「別るべき」は、係助詞「やは」を受けて連体形「べき」で結ぶ。死に別れてよいものか、いやよくない、の意となり、三句切れである。前歌が「今日」に悲しみを限ったのに対し、この歌は「秋」という季節に悲しみを重ねている。
四句「あるを見るだに」は、生きている人を見るのでさえ、の意である。「だに」は軽いものを挙げて重いものを類推させる。
結句「恋しきものを」の「ものを」は逆接の詠嘆を表す。人恋しい季節なのに、と余情を残して結ぶ。
わかる:別れる。ここでは死に別れる
- 作者
-
壬生忠岑
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
明日知らぬ我が身と思へど暮れぬ間の 今日は人こそ悲しかりけれ
- 次の歌
-
神無月時雨に濡るるもみぢ葉は ただわび人の袂なりけり