古典和歌stream

藤衣はつるる糸はわび人の
涙の玉の緒とぞなりける

歌の意味
喪服のほつれた糸は、悲しみに沈む者の涙の玉を貫き通す緒となったのだった。
鑑賞
巻第十六 哀傷歌 841

詞書「父が思ひにてよめる」
 父の喪に服していたときに詠んだ歌である。喪服からほつれた糸が、こぼれ落ちる涙の玉を貫く緒になったと詠む。涙を玉に、ほつれ糸を玉を通す緒に見立て、絶え間なく流れる涙と、着古してほつれるほど長く続く喪を表している。
 前歌の母の喪の歌と並び、ともに喪中の人を「わび人」と呼び、衣服に悲しみを託している。
 作者の「たたみね」は壬生忠岑である。古今集の撰者の一人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「藤衣」は、藤などの繊維で織った粗末な衣で、喪服を指す。
 二句「はつるる糸は」は、ほつれた糸は、の意である。「糸」は結句の「緒」と縁語になる。
 三句「わび人の」は、悲しみに沈む人、ここでは作者自身を指す。前歌の四句「ただわび人の」と同じ語を用いている。
 四句「涙の玉の」は、涙の粒を玉に見立てている。
 結句「緒とぞなりける」の「緒」は玉を貫き通す紐である。係助詞「ぞ」を受けて連体形「ける」で結ぶ。

ふぢごろも:藤などの繊維で織った粗末な衣。喪服
はつる:ほつれる、糸がほどける
たまのを:玉を貫き通す紐
作者
壬生忠岑
出典
古今和歌集
前の歌
神無月時雨に濡るるもみぢ葉は ただわび人の袂なりけり
次の歌
朝露のおくての山田かりそめに 憂き世の中を思ひぬるかな