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あしひきの山辺に今はすみぞめの
衣の袖は干る時もなし

歌の意味
今は山のほとりに住んで、墨染の衣を着ていますが、その袖は涙で乾く時もない。
鑑賞
巻第十六 哀傷歌 844

詞書「女の親の思ひにて山寺に侍りけるを、ある人のとぶらひつかはせりければ、返事によめる」
 親の喪のために山寺にこもっていた女性が、ある人から弔問の便りを受けて、その返事として詠んだ歌である。山で喪服を着て暮らしながら、袖は涙で乾く時もないと答えている。前歌の弔問する側の歌に対し、この歌は弔問を受ける側の歌であり、二首は対をなしている。
 作者は不明である。詞書から、親を亡くした女性の歌であることがわかる。

 初句「あしひきの」は「山」にかかる枕詞である。
 二句「山辺に今は」は、今は山のほとりに、の意で、山寺にこもっていることを示す。
 三句「すみぞめの」は、山辺に「住み」と、喪服の色である「墨染」を掛ける掛詞である。前歌の初句「墨染の」と同じ語が用いられている。
 四句「衣の袖は」は喪服の袖である。前歌の「君が袂」に対し、ここでは自らの袖を詠む。
 結句「干る時もなし」は、涙で乾く時もない、の意である。

おもひ:喪に服すること、喪中
すみぞめ:山に住む意の「住み」と、喪服の色である「墨染」を掛ける
ふ:乾く
作者
よみ人しらず
出典
古今和歌集
前の歌
墨染の君が袂は雲なれや 絶えず涙の雨とのみ降る
次の歌
水の面にしづく花の色さやかにも 君が御影の思ほゆるかな