花よりも人こそあだになりにけれ
いづれを先に恋ひむとか見し
- 歌の意味
-
花よりも人のほうがはかなくなってしまった。花と人と、どちらを先に恋しく思うことになると考えていただろうか。
- 鑑賞
-
巻第十六 哀傷歌 850
詞書「桜を植ゑてありけるに、やうやく花咲きぬべき時に、かの植ゑける人身まかりにければ、その花を見てよめる」
桜を植えた人が、ようやく花が咲こうとするころに亡くなり、その花を見て詠んだ歌である。散りやすくはかないはずの花よりも、人のほうが先にはかなくなってしまったと嘆く。花が散るのを惜しむはずが、先に人を恋い慕うことになるとは思いもしなかったという驚きと悲しみが込められている。
作者の「きのもちゆき」は紀茂行である。紀貫之の父とされるが、伝は詳らかでない。
初句「花よりも」は、はかないものの代表である花よりも、の意である。
二句「人こそあだに」の「あだ」は、はかない、もろい、の意である。係助詞「こそ」で人を強調する。
三句「なりにけれ」は、係助詞「こそ」を受けて已然形「けれ」で結ぶ。三句切れである。
四句「いづれを先に」は、花と人のどちらを先に、の意である。
結句「恋ひむとか見し」の「か」は疑問を表し、恋しく思うことになると思っていただろうか、の意である。
あだ:はかないこと、もろいこと
- 作者
-
紀茂行
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
郭公今朝鳴く声に驚けば 君を別れし時にぞありける
- 次の歌
-
色も香も昔の濃さに匂へども 植ゑけむ人の影ぞ恋しき