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色も香も昔の濃さに匂へども
植ゑけむ人の影ぞ恋しき

歌の意味
色も香りも昔と変わらぬ濃さで美しく咲いているけれども、この梅を植えたであろう人の姿が恋しい。
鑑賞
巻第十六 哀傷歌 851

詞書「主身まかりにける人の家の梅の花を見てよめる」
 主人が亡くなった家の梅の花を見て詠んだ歌である。梅は昔と変わらぬ色と香で咲いているが、それを植えたであろう主人の姿はもうない。変わらぬ自然と、失われた人とを対比し、故人を恋い慕う気持ちを詠んでいる。
 前歌は、植えた人が花より先にはかなくなったと嘆く歌で、植えた人を失った花を詠む点で二首は共通する。
 作者の「つらゆき」は紀貫之である。古今集の撰者の中心人物で、仮名序を執筆した。三十六歌仙の一人である。

 初句「色も香も」は梅の花の色と香りで、梅の美しさの両面を挙げる。
 二句「昔の濃さに」は、主人が生きていた昔と同じ濃さで、の意である。
 三句「匂へども」の「匂ふ」は色美しく照り映える意で、「ども」は逆接である。本巻の第八百四十八首では主のいない家の紅葉が色づかないと詠まれ、この歌の変わらぬ花の色と対照をなしている。
 四句「植ゑけむ人の」の「けむ」は過去推量で、植えたであろう人の、の意である。
 結句「影ぞ恋しき」の「影」は姿の意である。係助詞「ぞ」を受けて連体形「恋しき」で結ぶ。

にほふ:色美しく照り映える。香る
かげ:姿、面影
作者
紀貫之
出典
古今和歌集
前の歌
花よりも人こそあだになりにけれ いづれを先に恋ひむとか見し
次の歌
君まさで煙絶えにし塩竈の うらさびしくも見え渡るかな