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ことならば言の葉さへも消えななむ
見れば涙の滝まさりけり

歌の意味
同じことなら、人とともにその言葉までも消えてしまってほしい。見ると涙の滝がいっそう激しくなることだ。
鑑賞
巻第十六 哀傷歌 854

詞書「惟喬親王の、父の侍りけむ時によめりけむ歌どもと請ひければ、書きて送りける奥によみて書けりける」
 惟喬親王から、作者の父が生きていたころに詠んだ歌を所望され、それを書き写して送った際、その末尾に書き添えた歌である。亡き父の歌を見ると涙がとめどなく流れるので、いっそ父とともに歌の言葉も消えてしまえばよいと詠む。形見である歌がかえって悲しみをつのらせる心情を表している。
 惟喬親王は文徳天皇の第一皇子で、在原業平らと親しく交わった。
 作者の「とものり」は紀友則である。紀貫之の従兄で、古今集の撰者の一人であった。三十六歌仙の一人である。

 初句「ことならば」は、同じことならば、どうせなら、の意である。
 二句「言の葉さへも」は、父が遺した歌の言葉までも、の意である。「さへ」は添加を表し、人に加えて言葉までも、の意となる。初句の「こと」と二句の「言」で音を重ねている。
 三句「消えななむ」の「な」は完了の助動詞「ぬ」の未然形、「なむ」は願望の終助詞で、消えてしまってほしい、の意である。三句切れである。
 四句「見れば涙の」は、父の歌を見ると、の意である。
 結句「滝まさりけり」は、涙の滝が激しさを増すことだ、の意である。「消え」「滝」と、言葉と水にかかわる語を配している。

ことのは:言葉、和歌
おく:書物や手紙の末尾
作者
紀友則
出典
古今和歌集
前の歌
君が植ゑしひとむら薄虫の音の しげき野辺ともなりにけるかな
次の歌
亡き人の宿に通はば郭公 かけて音にのみ泣くと告げなむ