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思ふどちまとゐせる夜は唐錦
たたまく惜しき物にぞありける

歌の意味
気心の知れた者どうしが輪になって集う夜は、唐錦を裁つのが惜しいように、席を立つのが惜しいものであったよ。
鑑賞
巻第十七 雑歌上 864

詞書「題しらず」
 親しい仲間と車座になって過ごす夜の楽しさを、美しい唐錦を裁つのが惜しい気持ちに重ね、座を立ちがたい名残惜しさを詠んだ歌である。宴や団欒の喜びを詠む歌として、雑歌上の冒頭近くに置かれている。作者は未詳である。

 初句「思ふどち」の「どち」は仲間、同士の意で、心を通わせる者たちの集まりであることを示す。
 二句「まとゐせる夜は」は、輪になって座り語り合う夜をいう。「せる」はサ変動詞「す」に存続の助動詞「り」の連体形が付いた形である。
 三句「唐錦」は舶来の美しい錦で、「裁つ」を導く。次歌の第八百六十五首の「唐衣」と、舶来の布を詠む点で対をなす。
 四句「たたまく惜しき」は、錦を「裁つ」と席を「立つ」を掛けた掛詞である。「まく」は推量の助動詞「む」のク語法で、「立とうとすることが」の意となる。
 結句「物にぞありける」は「ぞ」を受けて詠嘆の「けり」の連体形「ける」で結ぶ係り結びで、今さらながら気づいた感慨を表す。第八百六十六首も同じ結句をもち、並んだ歌どうしが響き合う。

まとゐ:輪になって座ること、団欒
たつ:錦を裁つ意と、席を立つ意を掛ける
どち:仲間、同士
作者
よみ人しらず
出典
古今和歌集
前の歌
我が上に露ぞ置くなる天の河 門渡る舟のかいのしづくか
次の歌
うれしきを何に包まむ唐衣 たもとゆたかに裁てと言はましを