せみの羽の夜の衣は薄けれど
移り香濃くもにほひぬるかな
- 歌の意味
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蝉の羽のように薄い夜の衣ではあるが、移り香は濃く匂ったことだなあ。
- 鑑賞
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巻第十七 雑歌上 876
詞書「方違へに人の家にまかれりける時に、主の衣を着せたりけるを朝に返すとて詠みける」
方違えのために人の家に泊まった時、主人が貸してくれた衣を翌朝返す際に詠んだ歌である。薄い夏の衣であったが、焚きしめた香が濃く移ったと、主人のもてなしの細やかさに感謝を述べている。
作者の「きのとものり」は紀友則である。紀有朋の子で、紀貫之の従兄にあたる。『古今和歌集』の撰者の一人であったが、完成を見ずに没した。三十六歌仙の一人である。
初句「せみの羽の」は、薄く透ける蝉の羽に衣の薄さを喩える。
二句「夜の衣は」は、寝る時に着る衣、夜着のことである。
三句「薄けれど」は、逆接の「ど」で下の句に続き、薄いことと香の濃いことを対比させる。
四句「移り香濃くも」は、衣に焚きしめた香が身に移ったことをいう。「薄」と「濃」の対比がこの歌の要である。
結句「にほひぬるかな」は、完了の「ぬ」の連体形に詠嘆の「かな」が付き、香が匂ったことへの感嘆で結ぶ。
かたたがへ:外出の際に凶の方角を避けて、前夜に別の所へ泊まること、方違え
うつりか:物に移り残った香り
まかる:行く、参る
- 作者
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紀友則
- 出典
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古今和歌集
- 前の歌
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かたちこそ深山隠れの朽ち木なれ 心は花になさばなりなむ
- 次の歌
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遅く出づる月にもあるかなあしひきの 山のあなたも惜しむべらなり