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二つなきものと思ひしを水底に
山の端ならで出づる月影

歌の意味
この世に二つとないものと思っていたのに、水の底に、山の端でもないところから出てくる月の光よ。
鑑賞
巻第十七 雑歌上 881

詞書「池に月の見えけるを詠める」
 池に映った月を見て、二つとないはずの月がもう一つ、山の端ではなく水底から出ていると驚いた歌である。水に映る月を実景として楽しむ貫之らしい機知の歌である。
 作者の「きのつらゆき」は紀貫之である。紀望行の子で、『古今和歌集』の撰者の中心となり、仮名序を著した。三十六歌仙の一人である。

 初句「二つなき」は、月がこの世に一つしかないという常識を示す。
 二句「ものと思ひしを」は、過去の「し」に逆接の「を」が付き、そう思っていたのにの意となる。六音に「を」が加わる字余りである。
 三句「水底に」は、池の底を指し、月が映る場所を示す。
 四句「山の端ならで」の「ならで」は、「でなくて」の意で、月が昇るべき山の端ではないことをいう。
 結句「出づる月影」は体言止めで、水底から昇る月への驚きを余韻として残す。

みなそこ:水の底
やまのは:山の稜線、山の端
作者
紀貫之
出典
古今和歌集
前の歌
かつ見れど疎くもあるかな月影の 至らぬ里もあらじと思へば
次の歌
天の河雲のみをにて早ければ 光とどめず月ぞ流るる