老いらくの来むと知りせば門さして
なしと答へて会はざらましを
- 歌の意味
-
老いがやって来ると知っていたならば、門を閉ざして「留守です」と答えて、会わずにいたものを。
- 鑑賞
-
巻第十七 雑歌上 895
詞書「題しらず」
老いを人のように見立て、訪ねてくると知っていたら門を閉ざし、留守だと答えて会わなかったのにと詠む歌である。避けられない老いを、居留守で追い返せる来客のように扱う機知が、嘆きを軽やかなものにしている。作者は未詳である。
左注に「このみつの歌は、昔ありける三人の翁の詠めるとなむ」とあり、本歌から第八百九十五首までの三首は、昔いた三人の老人がそれぞれ詠んだ歌と伝えられる。
初句「老いらくの」は、老いることを名詞化した語で、老いを擬人化している。
二句「来むと知りせば」は、過去の「き」の未然形「せ」に「ば」が付いた反実仮想の条件で、来ると知っていたならばの意となる。
三句「門さして」は、門を閉ざしての意で、老いを来客のように扱う。
四句「なしと答へて」は、主人は留守だと答えての意である。
結句「会はざらましを」は、反実仮想の「まし」に「を」が付き、会わずにすんだものをと悔やむ。二句の「せば」と呼応する「せば…まし」の形である。
おいらく:老いること、老年
かど:門
さす:戸や門を閉ざす
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
おしてるや難波の御津に焼く塩の からくも我は老いにけるかな
- 次の歌
-
さかさまに年もゆかなむ取りもあへず 過ぐる齢やともに帰ると