抜き乱る人こそあるらし白玉の
間なくも散るか袖の狭きに
- 歌の意味
-
緒を抜いて玉を乱し散らす人がいるらしい。白玉が絶え間なく散ってくることよ。受け止める私の袖は狭いのに。
- 鑑賞
-
巻第十七 雑歌上 923
詞書「布引の滝の本にて人々集まりて歌詠みける時に詠める」
布引の滝のもとに人々が集まって歌を詠んだ時の歌である。滝の上で誰かが玉を貫いた緒を抜き、白玉を散らしているらしいと見立て、絶え間なく散る玉を受け止めるには袖が狭すぎると詠む。滝のしぶきの美しさと、涙を思わせる白玉の像が重なる。
作者の「なりひらの朝臣」は在原業平である。平城天皇の皇子阿保親王の子で、六歌仙の一人である。
この歌は『伊勢物語』第八十七段にも見え、兄の行平の歌と並んで布引の滝の場面に置かれている。
初句「抜き乱る」は、玉を通した緒を抜いて玉をばらばらに散らすの意で、滝のしぶきを散る玉に見立てる。
二句「人こそあるらし」は、「こそ」を受けて推定の「らし」で結ぶ。「らし」は已然形をもたないため、終止形で結ぶ形となる。ここで意味が切れる二句切れである。
三句「白玉の」は、前歌の第九百二十二首の「滝の白玉」と同じ語で、兄弟の歌が同じ見立てで並ぶ。
四句「間なくも散るか」は、絶え間なく散ることよの意で、詠嘆の「か」で言い切る四句切れである。
結句「袖の狭きに」は倒置で、受け止める袖が狭いのにと結ぶ。袖は涙を受けるものでもあり、白玉に涙を重ねる余情がある。
ぬきみだる:緒に通した玉を抜いて散らす
しらたま:白い玉、真珠
- 作者
-
在原業平
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
こき散らす滝の白玉拾ひおきて 世の憂き時の涙にぞ借る
- 次の歌
-
誰がために引きてさらせる布なれや 世を経て見れど取る人もなき