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思ひせく心の内の滝なれや
落つとは見れど音の聞こえぬ

歌の意味
思いをせき止めている心の中の滝なのだろうか。流れ落ちているとは見えるのに、その音が聞こえないのは。
鑑賞
巻第十七 雑歌上 930

詞書「田村の御時に女房の侍にて御屏風の絵御覧じけるに、滝落ちたりける所おもしろし、これを題にて歌詠めとさぶらふ人に仰せられければ詠める」
 文徳天皇の時代、女房の詰所で帝が屏風の絵をご覧になり、滝の落ちている所が趣深いのでこれを題に歌を詠めと命じられて詠んだ歌である。絵の滝は音がしないことを、思いをせき止めて声に出せない心の中の滝に喩え、秘めた思いを巧みに重ねている。
 作者の「三条の町」は紀静子である。紀名虎の娘で、文徳天皇の更衣となり、惟喬親王を生んだ。
 本歌で滝の歌群が結ばれ、次歌からは屏風の絵を詠む歌が続く。

 初句「思ひせく」は、思いをせき止めるの意で、口に出せない思いを示す。
 二句「心の内の」は、心の中のの意で、絵の滝を心の中の滝に見立てる。
 三句「滝なれや」は、已然形に疑問の「や」が付いた形で、滝なのだろうかの意となる。ここで意味が切れる三句切れである。
 四句「落つとは見れど」は、逆接の「ど」で、落ちているとは見えるけれどの意となる。
 結句「音の聞こえぬ」は、打消の「ず」の連体形「ぬ」で結ぶ。絵に描かれた滝であるために音がしないことを、秘めた思いが声にならないことに重ねている。

せく:水の流れをせき止める
にようばう:宮中に仕える女官、女房
作者
三条町
出典
古今和歌集
前の歌
風吹けど所も去らぬ白雲は 世を経て落つる水にぞありける
次の歌
咲きそめし時より後はうちはへて 世は春なれや色の常なる