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雁の来る峰の朝霧晴れずのみ
思ひ尽きせぬ世の中の憂さ

歌の意味
雁が渡って来る峰の朝霧がいつまでも晴れないように、心は晴れることがなく、思いの尽きることのない世の中のつらさであるよ。
鑑賞
巻第十八 雑歌下 935

詞書「題しらず」
 秋、雁の渡ってくる峰にかかる朝霧が晴れないさまを、心の晴れない憂いにたとえた歌である。上の句の景が下の句の心情を導き、世の中の憂さが絶えることのない嘆きを表している。
 結句を「世の中の憂さ」と体言で止め、嘆きの対象をはっきりと示している。
 作者は「読人しらず」とされ、名は伝わらない。

 初句「雁の来る」は、秋に北から雁が渡ってくること。季節は秋で、もの寂しい情景を添えている。
 二句「峰の朝霧」は、山の峰に立ちこめる朝の霧。初句から二句までが、三句の「晴れず」を導く序詞となっている。
 三句「晴れずのみ」は、霧が晴れないことと、心が晴れないこととを重ねている。「のみ」は、ひたすら、の意を強める。
 四句「思ひ尽きせぬ」は、物思いが尽きることのない、の意。結句の「憂さ」にかかる。
 結句「世の中の憂さ」は、世の中のつらさ。体言止めで嘆きの対象を言い切り、巻頭からの「世の中」の主題を受けている。

あさぎり:朝に立つ霧
うさ:つらいこと、つらさ
作者
よみ人しらず
出典
古今和歌集
前の歌
幾世しもあらじわが身をなぞもかく 海人の刈る藻に思ひ乱るる
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しかりとて背かれなくに事しあれば まづ嘆かれぬあな憂世の中