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世の中の憂きもつらきも告げなくに
まづ知るものは涙なりけり

歌の意味
世の中のつらいことも苦しいことも、誰も告げてはいないのに、真っ先にそれを知るものは涙なのであった。
鑑賞
巻第十八 雑歌下 941

詞書「題しらず」
 世の中のつらさを誰かに知らされるより先に、涙が流れてしまうことを詠んだ歌である。心より先に涙が悲しみを知っているかのように捉え、憂き世の悲しみの深さを表している。
 前歌の第九百四十首と「涙なりけり」の結句を共有し、涙を主題とする二首が並んでいる。また本巻の第九百三十六首の「まづ嘆かれぬ」と同じく、事に先立って悲しみが表れることを詠んでいる。
 作者は「読人しらず」とされ、名は伝わらない。

 初句「世の中の」は、世間の、の意。巻頭の第九百三十三首以来の主題を受けている。
 二句「憂きもつらきも」は、つらいことも苦しいことも、の意。似た意味の語を重ねて悲しみを強めている。
 三句「告げなくに」は、告げてはいないのに、の意。「なくに」は打消の逆接である。
 四句「まづ知るものは」は、真っ先に知るものは、の意。涙を、知る主体として擬人化している。
 結句「涙なりけり」は、涙であったのだ、の意。前歌と同じ結句で、「けり」は詠嘆を表す。

つぐ:知らせる、告げる
作者
よみ人しらず
出典
古今和歌集
前の歌
あはれてふ言の葉ごとに置く露は 昔を恋ふる涙なりけり
次の歌
世の中は夢か現か現とも 夢とも知らずありてなければ