知りにけむ聞きても厭へ世の中は
波の騒ぎに風ぞしくめる
- 歌の意味
-
もう分かっているだろう。聞いただけでも嫌って離れるがよい。世の中は、騒ぎ立つ波の上に、さらに風が吹き重なるようなものらしい。
- 鑑賞
-
巻第十八 雑歌下 946
詞書「題しらず」
世の中のつらさを、騒ぎ立つ波にさらに風が吹き加わるさまにたとえ、聞いただけでも世を厭えと人に勧める歌である。災いが重なって絶えることのない世の姿を、荒れる海の景で示している。
作者の「ふるのいまみち」は布留今道である。平安時代前期の歌人で、経歴の詳細は明らかでない。
初句「知りにけむ」は、もう知ってしまっただろう、の意。「に」は完了、「けむ」は過去推量の助動詞で、初句切れである。
二句「聞きても厭へ」は、聞くだけでも世を嫌って離れよ、の意。「厭へ」は命令形で、二句切れである。
三句「世の中は」は、主題を示す。
四句「波の騒ぎに」は、波が騒ぎ立つ上に、の意。世の騒がしさを波にたとえている。
結句「風ぞしくめる」は、風が重ねて吹くようだ、の意。「しく」は重なる、しきりに起こる意。「める」は推量の助動詞「めり」の連体形で、係助詞「ぞ」の結びとなる。
いとふ:嫌って避ける、世を捨てる
しく:重なる、次々に起こる
- 作者
-
布留今道
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
白雲の絶えずたなびく峰にだに 住めば住みぬる世にこそありけれ
- 次の歌
-
いづこにか世をば厭はむ心こそ 野にも山にもまどふべらなれ