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身を捨てて行きやしにけむ思ふより
外なるものは心なりけり

歌の意味
わが心は身を捨ててあなたのもとへ行ってしまったのだろうか。自分の思いのほかに勝手に動くものは心なのであった。
鑑賞
巻第十八 雑歌下 977

詞書「人を訪はで久しうありける折に、あひ恨みければよめる」
 長く訪ねずにいた相手から恨まれた時に詠んだ歌である。訪ねなかったのは体であって、心は身を離れてあなたのもとへ行っていたのだろうと言い、心は自分の思いどおりにならないものだと弁解している。
 心と身とを切り離して捉える機知によって、無沙汰の詫びと相手への思いとを同時に伝えている。前歌の第九百七十六首に続いて、訪れの絶えた人の間柄を詠む歌が並んでいる。
 作者の「みつね」は凡河内躬恒である。古今和歌集の撰者の一人で、三十六歌仙の一人に数えられる。

 初句「身を捨てて」は、身体を置き去りにして、の意。主語は四句以下の「心」である。
 二句「行きやしにけむ」は、行ってしまったのだろうか、の意。「や」は疑問の係助詞、「し」はサ変動詞、「に」は完了、「けむ」は過去推量で、「や」の結びとなる。二句切れである。
 三句「思ふより」は、自分が思うよりも、の意である。
 四句「外なるものは」は、思いのほかにあるものは、の意である。
 結句「心なりけり」は、心なのであった、の意。「けり」は気づきの詠嘆を表す。

あひうらむ:互いに恨む
作者
凡河内躬恒
出典
古今和歌集
前の歌
水の面に生ふる五月の浮草の うきことあれや根を絶えて来ぬ
次の歌
君が思ひ雪と積もらば頼まれず 春より後はあらじと思へば