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わび人の住むべき宿と見るなへに
嘆き加はる琴の音ぞする

歌の意味
世をわびる人が住むのにふさわしい家だと見ていると、それにつれて嘆きがいっそう加わるような琴の音が聞こえてくる。
鑑賞
巻第十八 雑歌下 985

詞書「奈良へまかりける時に、荒れたる家に女の琴弾きけるを聞きて、よみて入れたりける」
 奈良へ行く途中、荒れた家で女が琴を弾いているのを聞いて、その家に詠み入れた歌である。荒れた住まいを見るにつけて、そこから聞こえる琴の音が、いっそう物悲しく嘆きを深めると詠んでいる。
 前歌の第九百八十四首の荒れた宿を受け、そこに住む人の気配を琴の音で表している。
 作者の「よしみねのむねさた」は良岑宗貞、のちの僧正遍昭である。桓武天皇の孫で、良岑安世の子。仁明天皇に仕え、天皇の崩御に際して出家した。六歌仙、三十六歌仙の一人である。

 初句「わび人の」は、世をわびる人の、失意の中に暮らす人の、の意である。
 二句「住むべき宿と」は、住むのにふさわしい家だと、の意である。
 三句「見るなへに」は、見るにつれて、の意。「なへに」は、…とともに、…につれて、の意の接続の語である。
 四句「嘆き加はる」は、嘆きがいっそう加わる、の意である。
 結句「琴の音ぞする」は、琴の音が聞こえる、の意。係助詞「ぞ」を受けて連体形「する」で結ぶ。

わびびと:世をわびて暮らす人、失意の人
作者
良岑宗貞
出典
古今和歌集
前の歌
荒れにけりあはれ幾世の宿なれや 住みけむ人の訪れもせぬ
次の歌
人ふるす里を厭ひて来しかども 奈良の都も憂き名なりけり