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人に逢はむつきのなきにはおもひおきて
胸はしり火に心焼けをり

歌の意味
あの人に逢う手だてもない月のない夜には、思いの火が燠となって起きていて、胸は走り火のようにざわめき、心は焼けこがれている。
鑑賞
巻第十九 雑体 1030

詞書「題しらず」
 「つき」「おもひ」「おき」「はしり火」と、火に関わる掛詞を連ねて、眠れぬ恋の苦しさを燃える火のイメージで畳みかけた歌である。前歌と同じく「月」と「付き」を掛けており、配列上呼応している。
 作者は小野小町である。出自は詳らかでないが、仁明天皇の頃に活躍した女流歌人で、六歌仙、三十六歌仙の一人である。

 初句「人に逢はむ」は、あの人に逢うための、の意で、字余りである。
 二句「つきのなきには」は、「月」と「付き(手がかり)」を掛ける掛詞である。前歌の「つきなみ」と同じ掛詞で呼応する。
 三句「おもひおきて」は、「思ひ」の「ひ」に「火」を、眠らずに「起き」に炭火の「燠(おき)」を掛ける掛詞である。字余りである。
 四句「胸はしり火に」は、胸騒ぎの意の「胸走り」と、はぜて飛ぶ火の「走り火」を掛ける掛詞である。
 結句「心焼けをり」は、火の縁語「焼け」で結ぶ。「をり」は状態の継続を表す。

つき:「月」と「付き(手がかり)」を掛ける
おもひ:恋の「思ひ」と「火」を掛ける
おく:眠らずに「起く」意と、炭火の「燠(おき)」を掛ける
はしりび:はぜて飛ぶ火に、胸が騒ぐ意の「胸走り」を掛ける
作者
小野小町
出典
古今和歌集
前の歌
逢ひ見まくほしは数なくありながら 人につきなみ惑ひこそすれ
次の歌
春霞たなびく野辺の若菜にも なり見てしかな人も摘むやと