秋の野に妻なき鹿の年を経て
なぞわが恋のかひよとぞ鳴く
- 歌の意味
-
秋の野で妻のいない鹿が、年を経ても、どうしてわが恋はかいがないのか、と「かいよ」と鳴いている。
- 鑑賞
-
巻第十九 雑体 1034
詞書「題しらず」
鹿の鳴き声を「かいよ」と聞きなし、それを「甲斐よ」と取りなして、年を経ても実らぬ恋を嘆く声とした歌である。前歌の妻恋う雉と対になり、春と秋、雉と鹿、妻を求める声と妻のない嘆きの声の対照をなす。
作者の「きのよしひと」は紀淑人である。紀長谷雄の子で、伊予守、河内守などを務めた。
初句「秋の野に」は、前歌の初句「春の野の」に対応する。
二句「妻なき鹿の」は、前歌の「妻恋に」と呼応し、妻のいない鹿を描く。
三句「年を経て」は、何年も経ても、の意である。
四句「なぞわが恋の」は、「なぞ」がどうして、の意である。
結句「かひよとぞ鳴く」は、鹿の鳴き声の聞きなしに「甲斐よ」を掛ける掛詞である。前歌と同じく「とぞ鳴く」で結ぶ。
かひ:鹿の鳴き声「かひよ」の聞きなしに、「甲斐(かい)」を掛ける
- 作者
-
紀淑人
- 出典
-
古今和歌集
- 前の歌
-
春の野の茂き草葉の妻恋に 飛び立つ雉のほろろとぞ鳴く
- 次の歌
-
蝉の羽のひとへに薄き夏衣 なればよりなむものにやはあらぬ