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君が代も我が代も知るや岩代の
岡の草根をいざ結びてな

歌の意味
あなたの命も私の命も支配している岩代の岡の草を、さあ結んで無事を祈りましょう。
鑑賞
巻第一 雑歌 10

詞書「中皇命の紀の温泉に往す時の御歌」
 紀伊の温泉へ向かう旅の途中、岩代の岡の草を結んで、互いの命の無事と長寿を祈ろうと呼びかける歌である。草や木の枝を結ぶことは、旅の安全や命の長久を願う古代の呪術的な習俗であった。岩代はかつて有間皇子が松の枝を結んで無事を祈った地としても知られ、巻第二の第百四十一首とともに、この地の結びの信仰を伝えている。左注は類聚歌林に天皇の御製とあることを記している。
 作者の中皇命は、誰を指すかについて定説を見ない呼称である。舒明天皇の皇女で孝徳天皇の皇后となった間人皇女とする説が有力であり、ほかに天智天皇の皇后の倭姫王とする説などもある。「中皇命」は、天皇と神とのあいだをとりもつ尊い女性、あるいは中継ぎの天皇を意味する呼称と解されている。

 初句「君が代も」は、「代」が命、寿命の意で、あなたの命もの意である。「君」は旅に同行する貴人を指し、中大兄皇子とする見方がある。
 二句「我が代も知るや」は、私の命もと続けたうえで、「知る」が治める、支配するの意、「や」が詠嘆を表す。岩代の神が二人の命をつかさどっていることをたたえている。「君が代」と「我が代」とを並べ、相手と自分を等しく祈りの対象とする対句的な構成である。
 三句「岩代の」は、紀伊国の地名で、現在の和歌山県日高郡みなべ町のあたりにあたる。「岩」の字が永遠不変を思わせ、長寿の祈りにふさわしい地名となっている。
 四句「岡の草根を」は、岡に生える草の意で、「根」は草そのものを言う接尾語である。この草が結ぶ対象となっている。
 結句「いざ結びてな」は、「いざ」が誘いかけの語、「な」が勧誘の終助詞で、さあ結ぼうの意である。草を結ぶ呪術を相手とともに行おうと呼びかけ、旅の安全への祈りで一首を結んでいる。

よ:命、寿命
しる:治める、支配する
くさね:草。「ね」は接尾語
むすぶ:草や枝を結び合わせて旅の無事や長命を祈る
作者
中皇命
出典
万葉集
前の歌
莫囂円隣之大相七兄爪謁気我が背子が い立たせりけむ厳橿が本
次の歌
我が背子は仮廬作らす草なくは 小松が下の草を刈らさね