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かくばかり恋ひつつあらずは高山の
磐根しまきて死なましものを

歌の意味
これほどまでに恋い続けているくらいなら、いっそ高い山の岩を枕にして死んでしまえばよかったものを。
鑑賞
巻第二 相聞 86

詞書は前の歌に続き「磐姫皇后、天皇を思ひて作らす歌四首」
 恋い慕う苦しさに耐えかね、いっそ死んでしまいたいという激しい思いを詠んだ一首である。迎えに行くか待つかと迷った一首目から一転し、恋の苦しみを死と比べる強い表現になっている。
 磐姫皇后が仁徳天皇を思って作った四首の二首目で、作者は一連の詞書による。
 作者の磐姫皇后は、葛城襲津彦の娘で、仁徳天皇の皇后である。古事記や日本書紀では嫉妬深い皇后として語られる。万葉集に載るこの一連は、後の時代の人が皇后に仮託して作ったものと考えられている。

 初句「かくばかり」は、これほどまでにの意で、恋の苦しさの度合いを強調する。
 二句「恋ひつつあらずは」の「つつ」は継続、「ずは」は〜しているくらいならの意で、結句の「まし」と呼応する。この言い回しは本巻の第百十五首の但馬皇女の歌、第百二十首の弓削皇子の歌にも用いられている。
 三句「高山の」は高い山のの意で、次の「磐根」を修飾し、人里を離れた場所を示す。
 四句「磐根しまきて」の「磐根」は大地に根を張ったような大岩、「し」は強意の副助詞、「まく」は枕にする意である。山中の岩を枕に死ぬことは行き倒れの死を思わせる。本巻の第二百二十三首の柿本人麻呂の歌の「岩根しまける」と響き合い、恋ゆえの死の願いと実際の死という反転した構図をなしている。
 結句「死なましものを」の「まし」は反実仮想の助動詞、「ものを」は逆接の詠嘆で、死んでしまえばよかったのにと嘆く。

いはね:大地にしっかりと据わった大きな岩
まく:枕にする、枕として寝る意
作者
磐姫皇后
出典
万葉集
前の歌
君が行き日長くなりぬ山尋ね 迎へか行かむ待ちにか待たむ
次の歌
ありつつも君をば待たむうち靡く 我が黒髪に霜の置くまでに