古典和歌stream

秋の田の穂向きの寄れる片寄りに
君に寄りなな言痛くありとも

歌の意味
秋の田の稲穂が一方になびき寄っているように、ひたすらあなたに寄り添いたい。人の噂がうるさくても。
鑑賞
巻第二 相聞 114

詞書「但馬皇女、高市皇子の宮に在す時に、穂積皇子を思ひて作らす御歌一首」
 秋の田の稲穂が一方になびくように、人の噂がうるさくてもひたすらあなたに寄り添いたいと、穂積皇子への一途な思いを詠んだ一首である。
 詞書によれば、但馬皇女が高市皇子の宮にいたときに、穂積皇子を思って作った歌である。許されない恋に踏み出そうとする皇女の決意が、稲穂のなびく素朴な景に託されている。
 作者の但馬皇女は、天武天皇の皇女で、母は藤原鎌足の娘の氷上娘である。異母兄の高市皇子の宮にいたが、同じく異母兄の穂積皇子と恋仲になった。

 初句「秋の田の」は本巻の第八十八首の磐姫皇后の歌の初句と同じで、稲穂に恋の思いを託す点でも対応している。
 二句「穂向きの寄れる」は、稲穂の向きが一方になびいているの意である。
 三句「片寄りに」までが序詞で、ひたすら一方に寄る意から「寄る」を導く。
 四句「君に寄りなな」の「なな」は願望を表し、あなたに寄り添いたいの意。四句切れで、「寄れる」「片寄り」「寄り」と同じ語を重ねて思いを強めている。
 結句「言痛くありとも」の「言痛し」は人の噂がうるさい意、「とも」は逆接の仮定で、倒置によって覚悟を示して結ぶ。

ほむき:稲穂の向き
かたより:一方に偏って寄ること
作者
但馬皇女
出典
万葉集
前の歌
み吉野の玉松が枝ははしきかも 君が御言を持ちて通はく
次の歌
後れ居て恋ひつつあらずは追ひ及かむ 道の隈廻に標結へ我が背