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な思ひと君は言へども逢はむ時
いつと知りてか我が恋ひずあらむ

歌の意味
思い悩むなとあなたは言うけれど、次に逢える時がいつと分かっていて、私が恋しく思わずにいられようか。
鑑賞
巻第二 相聞 140

詞書「柿本朝臣人麻呂が妻依羅娘子、人麻呂と相別るる歌一首」
 別れに際して思い悩むなと言う夫に、次に逢える時がいつとも分からないのに、恋しく思わずにいられるだろうかと返した一首である。
 詞書によれば、柿本人麻呂の妻の依羅娘子が、人麻呂と別れるときの歌である。石見相聞歌の後に置かれ、別れを夫の側からだけでなく妻の側からも示す配列になっている。
 作者の依羅娘子は、柿本人麻呂の妻で、伝未詳の女性である。石見の妻とする説と、都にいた妻とする説がある。
 本歌は相聞の部の最後の歌で、部の初めに置かれた第八十五首の磐姫皇后の歌と同じく、夫を待つ妻の思いで部立が閉じられている。

 初句「な思ひと」は、思い悩むなとの意で、夫の言葉を引いて歌い出す。
 二句「君は言へども」は、あなたは言うけれどもの意である。
 三句「逢はむ時」は、また逢える時の意である。
 四句「いつと知りてか」の「か」は反語の係助詞で、結句の連体形「む」で結ぶ係り結びである。
 結句「我が恋ひずあらむ」は、私が恋しく思わずにいられようか、いられないの意で、反語によって夫の言葉を打ち消す。

こふ:恋い慕う、恋しく思う
作者
依羅娘子
出典
万葉集
前の歌
石見の海打歌の山の木の間より 我が振る袖を妹見つらむか
次の歌
磐白の浜松が枝を引き結び ま幸くあらばまた帰り見む