古典和歌stream

楽浪の大山守は誰がためか
山に標結ふ君もあらなくに

歌の意味
楽浪の山の番人は、誰のために山に標縄を張って守っているのだろうか。大君はもういらっしゃらないのに。
鑑賞
巻第二 挽歌 154

詞書「石川夫人の歌一首」
 天皇の山を守る番人が今も標縄を張っている姿に、守るべき主を失ったむなしさを見て嘆いた一首である。
 天智天皇の崩御を悼む近江朝の挽歌群の一首として置かれている。
 作者の石川夫人は、天智天皇の夫人で、蘇我氏の出身とされるが、誰を指すかについて定説を見ない。蘇我氏が石川氏とも称したことから、この呼称で呼ばれたと考えられる。夫人は皇后や妃に次ぐ后妃の位である。

 初句「楽浪の」は、琵琶湖の西南岸一帯の地名で、近江の都があった地である。
 二句「大山守は」は、天皇の山を守る番人の意である。
 三句「誰がためか」の「か」は疑問の係助詞で、四句の連体形「結ふ」で結ぶ係り結びである。
 四句「山に標結ふ」は、山に標縄を張るの意である。本巻の第百五十一首の額田王の歌の「標結はましを」を受けるように、標を張る行為が再び詠まれている。
 結句「君もあらなくに」の「なくに」は〜ないのにの意で、大君はもういないのにと嘆く。本巻の第百六十三首の大伯皇女の歌の結句も同じ「君もあらなくに」である。

やまもり:山の番人
しめ:目印や占有のしるしに結ぶ縄など
作者
石川夫人
出典
万葉集
前の歌
やすみしし我ご大君の大御船 待ちか恋ふらむ志賀の唐崎
次の歌
三輪山の山辺真麻木綿短か木綿 かくのみからに長くと思ひき