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鴨山の岩根しまける我れをかも
知らにと妹が待ちつつあるらむ

歌の意味
鴨山の岩を枕にして横たわっている私のことを知らずに、妻は今も私の帰りを待ち続けていることだろうか。
鑑賞
巻第二 挽歌 223

詞書「柿本朝臣人麻呂、石見国に在りて死に臨む時に、自ら傷みて作る歌一首」
 石見の国の鴨山で岩を枕に死を迎えようとしている自分を知らずに、妻は今も帰りを待っているだろうかと、最期に妻を思いやった一首である。
 詞書によれば、人麻呂が石見の国で死を迎えようとしたときに、自らを悼んで作った歌で、人麻呂の辞世の歌とされる。続く妻の歌や、人麻呂の心になり代わった歌とともに一群をなしており、後の人による物語的な構成とみる説もある。
 作者の柿本人麻呂は、持統天皇、文武天皇の時代に活躍した宮廷歌人で、長歌や挽歌にすぐれ、万葉集を代表する歌人である。後の時代には歌聖と称えられた。
 本巻の第八十六首の磐姫皇后の歌の「磐根しまきて死なましものを」は、恋の苦しさゆえに岩を枕に死にたいと願う表現であった。本歌では同じ岩を枕にする姿が実際の死として詠まれ、恋の願望と現実の死という反転した構図をなしている。

 初句「鴨山の」の鴨山は、石見の国の山とされるが、所在は定まらない。
 二句「岩根しまける」の「岩根」は大きな岩、「し」は強意、「まく」は枕にする意、「る」は存続で、岩を枕にしているの意である。
 三句「我れをかも」の「か」は疑問の係助詞で、結句の連体形「らむ」で結ぶ係り結びである。
 四句「知らにと妹が」の「知らに」は知らずにの意で、妻は知らないでの意である。
 結句「待ちつつあるらむ」の「つつ」は継続、「らむ」は現在推量で、今も待ち続けているだろうと遠くの妻を思いやって結ぶ。

いはね:大地にしっかりと据わった大きな岩
まく:枕にする
作者
柿本人麻呂
出典
万葉集
前の歌
沖つ波来寄る荒礒を敷栲の 枕とまきて寝せる君かも
次の歌
今日今日と我が待つ君は石川の 峡に交りてありといはずやも