古典和歌stream

直の逢ひは逢ひかつましじ石川に
雲立ち渡れ見つつ偲はむ

歌の意味
じかにお逢いすることは、もうできないだろう。石川に雲よ立ちこめてくれ。それを見ながらあなたをしのぼう。
鑑賞
巻第二 挽歌 225

詞書は前の歌に続き「柿本朝臣人麻呂の死にし時に、妻依羅娘子の作る歌二首」
 もう二度とじかに逢うことはできないのだから、せめて石川に雲が立ちこめてほしい、それを見ながら夫をしのぼうと詠んだ一首である。雲は亡き人の魂や面影を宿すものとされた。
 柿本人麻呂の死に際して妻の依羅娘子が作った歌二首の二首目で、作者は一連の詞書による。
 作者の依羅娘子は、柿本人麻呂の妻で、伝未詳の女性である。

 初句「直の逢ひは」は、じかに逢うことはの意で、六音の字余りである。
 二句「逢ひかつましじ」の「かつ」は〜できる、「ましじ」は打消推量で、逢うことはできないだろうの意。二句切れである。本巻の第九十四首の藤原鎌足の歌の「有りかつましじ」と同じ言い回しである。
 三句「石川に」は、前歌と同じく夫の眠る地の川である。
 四句「雲立ち渡れ」は、雲よ一面に立ちこめよの意の命令形で、四句切れとなる。
 結句「見つつ偲はむ」の「む」は意志で、その雲を見ながら夫をしのぼうと結ぶ。本巻の第二百三十三首の結句も同じ「見つつ偲はむ」である。

しのふ:思い慕う、しのぶ
作者
依羅娘子
出典
万葉集
前の歌
今日今日と我が待つ君は石川の 峡に交りてありといはずやも
次の歌
荒波に寄り来る玉を枕に置き 我れここにありと誰れか告げなむ