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荒波に寄り来る玉を枕に置き
我れここにありと誰れか告げなむ

歌の意味
荒波に打ち寄せられてくる玉を枕元に置いて、私がここにいると、誰が妻に告げてくれるだろうか。
鑑賞
巻第二 挽歌 226

詞書「丹比真人(名闕けたり)、柿本朝臣人麻呂の意に擬へて報ふる歌一首」
 荒波の寄せる浜で玉を枕元に置いて横たわる自分が、ここにいると誰が妻に告げてくれるだろうかと、死んだ人麻呂の心になり代わって詠んだ一首である。
 詞書によれば、名の欠けた丹比真人が、人麻呂の心になぞらえて、妻の依羅娘子の歌に答えた歌である。人麻呂の死をめぐる歌群が、後の人の手によって物語のように整えられていることがうかがわれる。
 作者の丹比真人は、名が欠けていて伝わらない人物である。丹比氏は皇族の流れをくむ氏族で、真人はその姓である。

 初句「荒波に」は、荒波によっての意である。
 二句「寄り来る玉を」の「玉」は美しい石や貝のことで、荒波に打ち寄せられてくるそれをの意である。
 三句「枕に置き」は、枕元に置いての意で、六音の字余りである。
 四句「我れここにありと」は、私がここにいるとの意で、八音の字余りである。
 結句「誰れか告げなむ」の「か」は疑問の係助詞で、「なむ」で結ぶ係り結びである。誰が告げてくれるだろうかと、知らせる者のいない孤独を嘆く。

たま:美しい石や貝
作者
丹比真人
出典
万葉集
前の歌
直の逢ひは逢ひかつましじ石川に 雲立ち渡れ見つつ偲はむ
次の歌
天離る鄙の荒野に君を置きて 思ひつつあれば生けるともなし