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いなと言へど強ふる志斐のが強ひ語り
このころ聞かずて我れ恋ひにけり

歌の意味
もういいと言っても無理に聞かせる志斐の婆さんの押しつけ話も、このごろ聞かないので、私は恋しく思うようになったよ。
鑑賞
巻第三 雑歌 236

詞書「天皇、志斐嫗に賜ふ御歌一首」
 天皇が老女の志斐嫗に戯れかけた歌である。断っても話を聞かせてくる志斐嫗の語りも、しばらく聞かないと恋しいと、からかいながら親しみを表している。「強ふる」「志斐」「強ひ語り」と「しひ」の音を重ねた言葉遊びが眼目で、次歌の志斐嫗の返歌と問答をなしている。
 作者の持統天皇は天智天皇の皇女で、天武天皇の皇后となり、天武天皇の崩御ののち即位して藤原京を営んだ。題詞には「天皇」とのみあるが、持統天皇とするのが通説である。

 初句「いなと言へど」 「いな」は断る言葉で、「言へど」は逆接の確定条件である。もう結構だと断る場面から歌い起こしている。
 二句「強ふる志斐のが」 「強ふる」は無理強いする意の動詞「強ふ」の連体形である。「志斐の」の「の」は人名に添えて親しみを表す接尾語で、「強ふ」と「志斐」の音を響き合わせている。
 三句「強ひ語り」 押しつけがましい語りの意で、ここでも「しひ」の音を重ね、志斐嫗の名を話しぶりに結びつけた戯れの言葉となっている。
 四句「このころ聞かずて」 近ごろ聞いていないので、の意である。「ずて」は打消の助動詞「ず」に接続助詞「て」がついた形である。
 結句「我れ恋ひにけり」 「恋ふ」はここでは懐かしく思う意である。「にけり」は気づきの詠嘆で、うるさく思っていた話がかえって恋しくなったと結んでいる。

しふ:無理に押しつける、強いる
しひがたり:相手が嫌がるのに無理に聞かせる話
こふ:離れているものを慕い思う
作者
持統天皇
出典
万葉集
前の歌
大君は神にしませば天雲の 雷の上に廬りせるかも
次の歌
いなと言へど語れ語れと宣らせこそ 志斐いは申せ強ひ語りと詔る